業務から製造現場へと広がったRPAによる業務改善と負荷軽減
友鉄工業株式会社
代表取締役社長 友廣 和照さん、鉄蓋事業部係長 土井 博恵さん
製造業生産プロセスの改善業務プロセスの効率化企業文化や組織マインドの変革
Q1.事業内容を教えてください。 また、DXを導入することになったきっかけを教えてください。
友廣さん:わが社は、1959年に設立され、現在は自動車部品用プレス金型鋳物、工作機械・各種産業機械鋳物を主力事業としています。私は、「DX」という言葉がよく聞かれるようになった5年前くらいから生産性を上げるのはもちろん、「デジタル化は必ず必要になる。顧客のためにも導入しなければ」と考えていたものの、導入は難しいと思っていました。
生産現場は多品種少量生産で現場現物主義、事務系は手書き文化がずっと残っており、さらに2017年頃までは給与も手渡しするなど、DXとは程遠い職場環境なため導入までは難しいと思っていました。
しかし、生産性を上げるためにデジタル化は必ず必要になる、顧客のためにも導入しなければと考えていました。そこで私はまず朝礼などで「得意な人もそうでない人も、デジタル化を意識し取り組んでいこう」と口にし続け、社内に得意なスタッフがいたので、そのスタッフを専任とし、ITシステム部を作りました。ITシステム部のスタッフには、「社内の人たちに自身のスキルを共有してほしい」と伝えていたのですが、なかなか上手くいきませんでした。そんなときに知人を介して紹介されたのが、事務の自動化を可能にするソフトウェア技術「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」でした。
「工場にロボットならイメージが湧くが、事務に導入するとは面白い」と思ったのがDX導入のきっかけです。当初は生産現場へのDXの導入を考えていましたが、さまざまな話を聞く中で、弊社の特性上やはり難しいと感じ、まずはできるところからということで事務の業務から着手しました。
Q2.RPA導入までの過程を教えてください。
友廣さん:まずは私一人がRPAについて説明を聞き、次に実際に使うことになる事務、総務、製造、営業の女性社員5人に話を聞いてもらいました。
まずは事務からDXに着手し、工場など社内全体に波及していけばいいなと思ったのです。5人に、交代でセミナーを受講してもらい、その後一カ月間無料のRPAお試し体験にトライしてもらいました。それぞれの業務に直結するソフトウェアを使って、事務作業がどれだけ簡単になるかを実体験してもらいました。
最初は「手書き文化を大切にしたい」という思いや、私から5人に急に伝えたため、よく分からないままセミナーを受けているスタッフもいたようです。
私の中では実際に使う5人が難しいと感じるようだったら契約はしない方針でした。
しかし、そんな中でも5人が前向きに「やってみよう」と意思を固めてくれたので、2020年6月にRPAのライセンス契約を締結しました。その後事務でのRPA導入が落ち着いたのち、生産現場にRPA導入が出来る所は無いか業務の棚卸を行いデジタル化を進めてきました。これらは全て、トップダウンではなく、ボトムアップでスピード感を持って進めていきました。
Q3.RPAを進めていく中で苦労された点はありますか。
土井さん: RPA化したい業務は沢山ありましたが、導入当初は私たちの技術が追いついておらず試行錯誤でした。導入時は、半年契約でサポート企業に伴走してもらっていたので、担当者に来社していただきプロのシナリオ作りを見ながらテクニックを学びました。
契約終了後もメールや電話で相談させてもらえましたし、導入企業向けのネット掲示板も参考にしながら取り組みました。最初の頃は短いシナリオ作成ばかりで、エラーが出るとガッカリもしましたが、事務スタッフ同士で情報交換をし合い、トライ&エラーを繰り返し、一つ一つ問題を解決しながらシナリオを長くしていきました。シナリオとともに私たちも成長しているのを感じ、達成感を得ることが出来ました。
友廣さん:導入時には多少費用がかかるかもしれませんが、専門家に聞ける体制を整えることは大切と感じます。そうしないとシステムを使うスタッフが困るのはもちろんですが、分からない・出来ないからやりたくないというマインドになってしまう可能性があります。
そこはトップの判断でフォロー体制をしっかり整えるべきだと思います。
土井さん:私たちはRPAにより業務の効率化を図ることが出来、RPAの良さを肌で感じていましたが、事務スタッフ以外からは「本当に費用対効果があるのか」という声もありました。
そのため、私たちの活動を朝礼等で発信し、RPA化したい業務はないか事務所全体に発信するとともに、どれだけのメリットが出ているのか試算し、提示することで事務所内にもRPAを広めていきました。
2年目にライセンス更新が必要かと総務から問われましたが、のメリットを提示することで2年目以降も利用することが出来るようになりました。
Q4.導入後、どんな効果がありましたか。
土井さん:完成するまでに苦労がありましたが、導入後1年弱で事務、品質管理のRPA化に成功しました。1年半で729時間の労働時間削減と、費用の償却ができました。
例えば営業部では、日々の売上を確定させて在庫を手入力で数字に落とし込むという業務があり、毎日15~45分かかっていた大変な業務でしたが、今はボタン一つで完了です。
さらに、生産現場での品質管理にもRPAを導入しました。
検査業務において、手書きのものをパソコンに入力しグラフ化する品質管理の作業は、従来は1回あたり45分かかっていたものが、現在7分に短縮できています。
導入前は事務のスタッフは、なかなか仕事が終わらず残業時間も多かったが、導入後は定時には帰ることができるようになったので、スタッフの表情が明るくなりました。
友廣さん:品質管理のRPA化については外部の専門家にアドバイスをもらって進めているほか、設立当初は1人だったITシステム部には新たに2人の専門知識を持ったスタッフが入社し、社内のさらなるDX推進業務を担ってもらっています。
品質管理工程では、RPAが数値を集めデータベースに入力。手書きのメモを入力する手間が省略された。
Q5.今後、どのような展開を考えられておられますか。
友廣さん:RPA導入後、仕事時間が短縮できたことで考える時間が生まれました。社員たちはその時間を利用し、次の学びへとステップアップしています。
現在「ITシステム勉強会」を自発的に開催し、それぞれテーマを持って学んでいます。
また、RPA導入をきっかけに、他部署との連携の動きも生まれ、全体的なITスキルが上がっているのを実感しています。
私は、デジタル化だけで人間社会が成り立つとは思いません。人とAIの良いところを融合させ、互いにバランスをとっていきたい。
今後は、経理、品質管理に加え、受け継いできた伝統を守るためにも、上手くデジタルを使っていきたいと思います。