事例インタビュー

クラウド化でテレワークを実現 自社で培ったノウハウを横展開

株式会社WORK SMILE LABO

代表取締役 石井 聖博さん

卸売業社内の働き方改革

Q1.貴社の事業内容について教えてください。また、DXを推進した経緯についても聞かせてください。

弊社の創業は明治44(1911)年で、私の曽祖父が立ち上げた筆や墨を販売する「石井弘文堂」が始まりです。その後「石井事務機センター」と社名変更し、事務用品やOA機器を取り扱ってきました。しかし価格競争の波に飲まれ、さらにはリーマンショックも重なり経営の危機に直面、事業転換を図ることが求められました。
その様な中で、「お客さまがオフィス用品そのものではなく、さらに向こうにある、便利で快適な働き方を構築することに価値を求めている」と思い、お客様の課題をデジタル化で解決する「より良い働き方提案事業」を始めました。説得力のある提案を行うため、まずは自社がモデルとなりクラウド化を進めてきました。現在ではGoogle Workspaceをセンターピンツールにして、そこに紐づける形でさまざまな機能を持つツールを導入しております。
テレワーク環境の実現に際しては、ちょうど社内では小さな子どもを抱えていて、休みや早退が続くパート社員がいました。弊社はそれほど規模が大きくない会社ですので、1人の社員が休むだけでどうしても業務の滞りが発生します。子どもの送迎のために朝から出社できない、急な発熱のために帰宅しなければならないという事態がたびたび起こり、本人も気に病み、辞職を考えるようなところまで追い込まれてしまいました。このようなケースを防ぐためにもテレワーク環境を整えることは急務で、また、似たような問題を抱えるほかの企業にも必ず需要があると考えました。
一連の取組を始めたのは、新型コロナウイルス禍でリモートワークが当たり前になるよりも随分前で、他に先駆けて、デジタルの力で、どこにいても変わらずに仕事を続けられ、キャリアを断絶せずにすむ労働環境を整えることができたのです。

Q2.導入したツールの詳細を教えてください。また、その効果についても聞かせてください。

デジタル化のセンターピンツールになっているのがGoogle Workspaceです。そこに、オンライン会議用のZoom、顧客案件や受発注管理などの用途に使えるkintone、勤怠管理が行えるKing of Time、見積書や請求書の自動作成等を行えるRPAなどを紐づけ、テレワークでできる業務領域を広げていきました。
最後までリモートが難しかった“電話番”においては、インターネットを使った電話回線サービス・クラウドPBXを用いて解決しました。これらを継続的に進めてきたことで、生産性は273%向上、残業時間は41.3%減を達成することができました。
先に述べた仕事と家庭の両立で悩む社員の離職も防げ、真に働きやすいワークライフバランスを叶えることができています。さらにそのような環境が実現できたことで、採用にも大きな変化がありました。地元である岡山県では新卒の就職ランキングで1位になったりと、中途採用者に関しても従来の約3倍に増加しました。さらに在宅ワークに特化した求人サイトから募集を行ったところ、全国から応募が殺到しました。現在は宮崎、福岡、埼玉などからフルリモートで勤務する社員が10数名在籍しています。昨今の地方の中小企業における人材確保は急務で、また、介護や夫の転勤に伴う帯同などで在宅で働きたいという要望は少なくありません。テレワークの推進で雇用のDXが実現したと考えています。

このような弊社の取組を評価していただき、「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を中小企業で初受賞。蓄積してきた自社のDXノウハウを使い、現在は他社の働き方改革をサポートしています。

 

社内モニターで売り上げや個人成績を見える化

Q3.DXを進めるにあたり心がけた点はありますか。

DXを進めるにあたっては、トップの決断と社員の理解が何よりも大事です。なぜ今デジタル化を進めなければならないのか、どうして働き方を変えなければいけないのか、目的と理由を明確にすることが必要で、トップは「必ずやる」という強い気持ちで臨まなければなりません。
弊社においては、自社で新しい事業の柱を作ることと、ライフスタイルに合わせた多様な働き方を構築するという2つの理由・目的があったので、私自身がその背景をしっかりと社員に伝えました。次に、何から進めるのか、どのようなツールが必要かを決める段階では、社員自ら意見を出してもらうことが大事です。
弊社では、業務上で困っている点を社員に挙げてもらい、その後、社内で作った「デジタル化推進委員会」が、課題を解決するのにぴったりなツールを選定するという手法を取りました。実際にツールを導入して活用していくのが一番大変で、最初はどうしても変わることに対する抵抗感が出てしまいます。「面倒くさい」とか「慣れたやり方でいい」という理由からですが、そこは「仕事として与えられたミッションなので」と割り切ってもらい、評価制度に組み込んで実動してもらうよう働きかけます。そのうち実際に使用することで、ツールの便利さや快適さに気付き、「積極的に活用したい」という気持ちが生まれてきます。また、弊社ではBIツールを導入して、生産性がどのように向上したかを可視化しています。社内モニターに月の社内全体の粗利や個人の粗利達成率順位などを表示し、ボーナスの概算額などもわかるようにしているので、目標達成へのモチベーションにつながっています。

 

Q4.成功するためのポイントを教えてください。

例えば弊社が導入したテレワークであれば、ある程度のルールを設けることが必要です。「テレワークって、さぼることもできるんじゃないの」という相談を受けることもありますが 、弊社ではリモートの内勤社員は必ず画面に映って勝手にオフしないことなどを定め、いつでもやり取りができるようにしています。
かつて弊社には妊娠中の社員がおり、体調が安定しないため、リモートであっても細切れにしか働けないという事態が発生しました。そこで時間単位で働けるように就業規則を改定。社員それぞれの事情に合わせ、会社が変わることも非常に大事だと考えています。
また、希薄になりがちな社員同士のつながりを保つため、毎週月曜に出社日を設けて朝礼や会議を開き、濃いコミュニケーションを心がけています。さらに、営業社員が出先で印刷等の作業が必要になった場合にはサテライトオフィスも活用し、リモートと出社を使い分ける工夫もしています。
DXを進める上で、ハード面を整えていくことは比較的容易です。それぞれの会社が抱える課題に応じて、対応する機能を持つツールを導入し、運用しながらクリアしていけばいいと思います。問題は、DXマインドを醸成するためのソフトの部分。
まずは本当に必要なツールに絞り込んで、社員たちが使えそうな小さなものから少しずつ導入し、「デジタル化って便利だな」と皆が感じる機運を作り出すことが大事だと感じます。

 

いつでもコミュニケーションがとれるようにリモートの内勤スタッフはモニターに表示

Q5.今後のビジョンを聞かせてください。

私たちがテレワークを導入し始めたのは2015年頃。進めるうちに社内の労働環境が整って生産性が向上し、優秀な人材を各地から獲得できるようになりました。
さらに2016年頃からはオフィスを一般公開する体験見学会を開催し、他社さんへICTツールと導入支援とをセットで提供するなど、働き方改革の支援ができるようになりました。
人手不足が深刻な現代で、今やDXは必須事項です。都会では便利なITツールを開発している企業が山ほどありますが、地方の中小企業はそこにアプローチする手段を持ち合わせていません。
そこで、弊社のような地域に密着したサポート企業が必要となってくるのです。
弊社の使命は、中小企業が抱える同様の課題を解決し、“笑顔溢れるより良い働き方”を提案すること。まずは自社が新しいワークモデルとなり、広く横へ展開したいです。