事例インタビュー

「油圧機器がなくなる?」 業界のピンチを変革のチャンスに 進化を止めない油圧メンテナンスのプロ集団

株式会社リョーワ

代表取締役 田中 裕弓さん

専門技術・サービス業企業文化や組織マインドの変革ビジネスモデルの変革新しい事業・サービスの創出

Q1.事業内容および、DX導入のきっかけと 推進体制を教えてください。

北九州市で、主に油圧機器の修理やメンテナンス、AI外観検査システムの開発などを手掛けています。最初にDXを考えたきっかけは、脱油圧化による油圧機器の減少が囁かれ始め、1997年頃、当時のクライアントから「これから油圧機器は無くなる」と言われたことでした。
「DX」にはD(デジタル化)とX(変革)がありますが、弊社では重要なのは「変革」だと考えています。デジタルは変革のためのツールであって、手段の1つです。そして企業の変革には「このままではダメだ、ではどう変えればよいだろう」と考えを巡らせる「健全な危機感」が必要です。「油圧機器が無くなる、日本の市場が小さくなる」という危機感が追い風となりました。そして最も大切なのが「変革しよう」というトップの強い意志「マインドセット」です。
マインドセットを明確にしたのち、DXの長期ロードマップを策定しました。弊社のDXは単なる業務の効率化や職場環境の改善だけでなく、①属人的な作業の多い油圧機器の修理屋からAI企業へ「企業文化の改革」、②モノの販売からシステムの販売へ「新たな価値の創出」、③自社開発ツールを使った「新たなビジネスの創出」など、企業そのものの変革を目的としました。そしてその目的の達成のために、「経営・業務の効率化、提供するサービスの質」など、それぞれが持つ課題を解決するツールを選定していきました。
推進には体制も重要です。弊 社は、デジタルトランスフォーメーション、デジタライゼーション、デジタイゼーションを並行して行っており、全体のプロジェクトマネージメントとデータの共有を私が行っており、単純なデジタル化は各部署から役職に関係なく業務に詳しい者を選出し、DX推進チームを組織しました。

Q2.どのようなツールを導入し、 どのような流れで推進しましたか?

まず、今まで別々のツールに同じ内容を打ち込んでいた見積・営業・会計を1つのツールに集約しました。ツールの選定には福岡県中小企業振興センターの専門家派遣を活用しました。大企業ではDX担当部署がツールを準備して各部署のリーダーに使い方を教えていくと思うのですが、弊社は社員24人の中小企業。新旧両方のツールを動かしながら試行錯誤する日々が、半年ほど続きました。

少ない人数でやるので、弊社の既存のシステムの中で「入れ替えて最も業務に影響が出ないツール」を検討した結果、営業システムを基幹とし、そこにデータ連携ができる「会計ソフト」「給与ソフト」「生産管理システム」を導入。3つのツールに入力する無駄な作業を大幅にカットし、相互の連携もスムーズになりました。
一方で新たなビジネスの創出のために導入したのが、自社で開発した「AI外観検査システム」です。例えば、それまで手作業で行っていた機械の検査作業などは、検査員の感覚による判断の差やミスなどが起こりがちでしたが、「AI外観検査システム」ではカメラが自動で凹みや傷などをミクロン単位で検査できます。中小企業でも取入れやすい価格に抑えた、サブスクリプションのサービスです。元々タイからのインターンシップ生やタイ人社員で開発したものをさらに性能アップするために、事業再構築補助金を活用して、九州工業大学および同大学の卒業生のベンチャー企業と共同で開発を推進しました。

Q3.DXを推進する上で 工夫したポイントを教えてください。

まず「人」です。「AI外観検査システム」はタイの国立大学の中で5本の指に入るといわれる大学とMOU ※1 を結び開発しました。
インターンシップの学生に率先してAIを作ってもらい、その後採用をしています。優秀な人材が多いです。社内資源だけで全てを補おうとせず、大学やスタートアップ企業と連携したり、私自身のこれまでのつながりを生かし外部人材を役員や顧問に就けるなど、外部資源をフル活用しています。それはDXの推進のためだけではありません。社長になると叱られる機会が無くなるため、ブレた時に叱ってくれる外部人材の存在は経営においても重要だと思っています。
次は「お金」です。弊社はAI開発事業に対して、本業である油圧事業の売上の10%と、補助金を投資しています。本業の売上は減る時もありますが、開発事業を始めてから10年間継続的に投資を続けています。「会社の将来にお金を使う」ことを継続して続けているというのは、弊社の良い所の1つだと思っています。
そして最後に「情報」を集めることです。私自身、2015年に北九州市立大学大学院のMBAに入学し、新ビジネスモデルの確立のためにインダストリー4.0 ※2 を研究、発祥の地ドイツへ現地調査にもいきました。今でも年に2回は東京の勉強会へ行ったり、毎月「内外情勢調査会」という時事通信社がやっている勉強会にも参加しています。今はYouTubeもありますので、内容によっては無料でも有益な情報を集めることが出来ると思っています。

 

※1 Memorandum of Understandingの略。取引における当事者間の合意や理解を記す公式な文書。
※2ドイツ政府が2011年に発表した第4次産業革命。製造業や産業分野においてIT技術を取入れ、生産性や効率性の向上を目指すもの。

Q4.DX導入によって苦労したことと、 変化したことはありますか?

ツールを変えると最初は当然、今までのやり方に慣れているので多くの人が嫌がります。
「やりづらい」「昔の方がいい」と前のツールに戻そうとしますが、そこで戻さない。例えばデータ連携とか、テレワークとか、実際やってみると様々な問題が起こって進みません。
その時はまず一歩踏み出しては戻ってを繰り返します。そのため「進む方向」を明確に示すことが大事です。「計画は長期で、実践はアジャイル(小さく、早く)で」を心がけています。
そして改革に必要であればデジタル化し、必要でなければ無理にデジタル化はしません。
変化したのは、やはりマインドだと思います。弊社は現在、正社員24名の内7人が海外人材で、15~6年前からずっと外国人を採用しています。当初は外国人というだけで対応に戸惑っていたのですが、20人近く採用してきたからか、さすがにみんな慣れてきた様です。老若男女、外国人・日本人含めて多種多様なので、あまり違和感を感じなくなっています。
「昔と比べて変わることに慣れてきている」のが、最も大きな変化ではないでしょうか。

 

Q5.中小企業のDX推進に必要なものは何だと思いますか? また今後のDX推進の計画などはありますか?

「DXセレクション」を受賞している企業はどこも、DXが注目される前から「変革」に取り組んでいます。変革が先で、DXとは「変革するためのツールとしてデジタルの力を活かしている」だけ。大手企業は各部署が強いのでDX推進が難しいとの声も耳にしますが、中小企業は極端に言えば経営者が「やる」と方向を示せば進みます。
専門の部署をつくらなくても、アドバイザーにしっかり伴走してもらえば、より専門的な意見がもらえます。やはりDXに一番大切なのは、経営者や社員の「マインドセット」だと思います。
意志さえ決めれば、あとは補助金や、外部資源を活用したらいいと思います。経産省NEDO ※3 の助成金の採択を2023年度に受けたので、AI外観検査システムをさらにバージョンアップさせるべく「遠隔メンテナンスシステム」「予知保全システム」の開発が現在進行しているところです。3ヶ年計画です。まだまだ変革は続けます。

 

※3 新エネルギー・産業技術総合開発機構の略。革新的なエネルギー技術や産業技術の開発、普及支援などを行い日本の産業力向上に貢献している。