事例インタビュー

業務プロセスの「流れ」を見直しデジタルツールで課題を解決

株式会社今野製作所

代表取締役 今野 浩好さん

製造業新規顧客(取引先)の開拓生産プロセスの改善

Q1.事業内容を教えてください。また、DXを実践することになったきっかけを教えてください。

当社には4つの事業ユニットがありますが、その中で特に大きな柱は油圧機器事業と板金加工事業です。油圧機器事業は「EAGLE(イーグル)」というブランド名でオリジナルの油圧ジャッキや関連商品の製造・販売を行っています。一方の板金加工は創業時からの流れを汲む事業で、理化学機器をはじめとする板金加工を受託しています。このようにメーカーと受託加工という2つの異なる業態を持っていることが当社の特徴だと言えます。事業のデジタル化は、2000年前後からごく自然に始まりました。
当時はちょうど職場や家庭にパソコンが普及しはじめた頃で、当社もその流れに乗って少しずつ導入を始めていきました。サイボウズのグループウェアの導入も中小企業としては早いほうだったと思いますし、設計に若い技術者を採用して3D CADによる設計のデジタル化を進める改革も行っていきました。今のように本格的なDXに取り組み始めたのは、2010年です。

きっかけはリーマンショックで売上が落ち込んだことでした。お客様自体も売上が厳しくなっているため、どう営業をかけても受注が増えません。そこで、本格的な社内の業務改善に取り組むことにしたのです。油圧機器事業では町工場としての技術力や対応力を活かし、お客様ニーズに合わせたカスタム生産に力を入れるようになりました。また、板金事業ではメーカーとして板金設計を持っている強みを積極的に打ち出していきました。こうした業務改善で仕事はいただけるようになったものの、今度は社内業務が複雑化し、うまく回らなくなるという事態が起こりました。私はその頃、中小企業診断士や大学の先生方との勉強会に参加させていただくようになっていたため、先生方のアドバイスを頂きながら社内の「IT改善」に取り組むことになったのです。

Q2.業務改善をどのように進められたのですか?

まず取り組んだのは、会社全体の業務プロセスを見直し、課題を洗い出していくことでした。先ほどお話しした勉強会メンバーである中小企業診断士の先生が、アメリカで開発されたプロセス参照モデル「スコアモデル」の日本普及に取り組んでおられ、当社でも実験的に実践することになりました。

営業、設計、調達、生産(油圧、板金)の各部門の次世代リーダーたちを集め、「業務見える化プロジェクト」が始まりました。社内の各部門の社員にインタビューし、業務を一定のルールで定義すると同時に、業務の流れの中の問題点を見える化していく作業を約1年かけて行いました。プロセス参照モデルを通して学んだのは、業務を部署ごとで考えてはいけないということです。

会社というと、つい組織図で捉えようとしがちなのですが、業務機能で考えていくことが重要なのです。調達、製造、設計、生産などの業務機能を定義し、その間を仕事が流れていく。その視点で組織を捉えてみると、「これは営業の仕事だから」「それは技術部の担当だ」というような部門間での仕事の押し付け合いにはなりません。業務機能としてやらなければいけないことがわかり 、それらの つな がりを作っていく必要性に気づくことができます。そして、その課題を解消していくために、kintoneやコンテキサーといったデジタルツールを使うことになりました。

 

各拠点と連携し、リアルタイムの在庫数の見える化を実現

Q3.kintoneとコンテキサーはどのように活用されたのですか?

kintoneでは、営業の案件管理と技術メンバーの進捗管理の2つのアプリを作りました。以前は営業が個人的に設計に作業を依頼するようなことがあり、外から状況が見えていないことが課題だったのですが、アプリを使うことで社内案件の情報を共有できるようになりました。技術者は作業を受ける前に不明点や疑問点を解決でき、作業を効率的に行えるようになりました。コンテキサーで最初に手がけたのは、油圧機器事業の管理システムです。福島工場では、定番商品はある程度の在庫を持ちながら、見込みで生産計画を立てています。営業は工場の在庫を見ながら日々の活動をしていたのですが、工場から通知される在庫数は前日の業務終了時のものであったため、在庫数に反映される前に新たな受注が発生しているケースもありました。この問題を解決するために、コンテキサーで工場の生産予定と受注、在庫を連携させる「PSI連携システム」を作りました。ごくシンプルなものですが、離れた場所にいながらそれぞれの情報を1つの画面で確認できます。ほぼリアルタイムで受注と在庫と生産の情報が連動され、これまでのようなタイムラグが解消されたことは非常に大きな成果につながりました。

Q4.DXでどのような変化がありましたか?社員さんの反応はいかがでしたか?

「プロセス参照モデル」を使って業務の流れの見える化を覚えたことで、うまくいかない課題を見つけてもkintoneやコンテキサーといったツールで解決できるという感覚を持てるようになったと思います。もちろん、うまくいかずに残骸となったアプリも多々あります。それでも今までの業務の情報は蓄積されていますから、それを利用して新たなものを作っていけば、新たな成果も期待できます。こうしたツールを導入し始めた当初は、生産の現場は管理者のみが関わっている状況でしたが、現場に端末を置き情報共有するようになると、自分達の作業の組立てを先行してできるようになり、最近は現場から意見や要望が出てくるようになっています。そして、当社のデジタル化のもう1つの試みとして、2013年に同業他社とのデジタル連携に挑戦しました。仕事を共同で進める際に受発注や進捗状況をデータで共有でき、そのシステムは今も活用しています。また、この3社で人材育成の取り組みも始め、2019年から熟練職人の技術継承を目的にモーションキャプチャーなどで職人の技術をデータ化し、データベースを作って社員教育に生かす活動も続けています。

 

社内で打ち合わせをするスタッフ

Q5.今後、どのような展開を考えておられますか?

日本の町工場では、お客様からいただいた図面をもとに物作りをするという下請け業態が一般的です。しかし、当社にはメーカーの側面があり、設計機能も社内にあります。この強みを活かしてお客様にもっと関与し、高付加価値な商品や情報を提供していくことが大切だと思っています。現場だけでなく、さらに上流の業務の流れについても、どうすれば価値のある情報をスムーズにつないでいけるのか、これまでの経験を活かしながら取り組んでいきます。一足飛びには達成できることではありませんが、デジタル技術や新しい技術を使いながらやるべきことを進めていく。そしてお客様にさらにいい商品やサービスを提供していくことを目指します。