事例インタビュー

AIによる需要予測で発注を自動化 業務負荷を削減し、食財ロスを削減

株式会社ねぎしフードサービス

ストアサポートマネージャー 富岡 洵哉 さん

宿泊・飲食サービス業業務プロセスの効率化技術力の維持・強化サプライチェーンの最適化

Q1.貴社の事業内容とDX推進の経緯を教えてください。これまでどのような課題を抱えていたのでしょうか。

牛タン専門店『牛タン とろろ 麦めし ねぎし』を運営し、現在は東京を中心に40店舗、デリバリー7店舗を展開しています。近年飲食業界では慢性的な人手不足が課題となっております。当社も人財不足に悩まされており、貴重な人財を稼働させる場面はやはり「お客さま第一でありたい」と考えていました。そんな状況を解消するにはまず何をすればよいか思案した時に、お客さまとの接点以外の部分での時間のコントロールの必要性があると考えました。

各店舗の業務の中で特に負荷が大きく、かつDXを比較的実践しやすかったのが食財の発注業務です。これまでは各店舗の店長が過去の実績を参考にして店長の経験則で来客数を予測、必要な食財量を計算し発注していました。発注から店舗への入荷までは2日かかるので、私が店長を務めていた時には2日後の天気予報を確認して直近の曜日ごとの客数と過去の記録から類似する条件のデータを探し出し客数を予測していました。でも、これがなかなか当たらないんです。

また全店舗でみると以前は年間9000時間以上も発注業務に時間を取られていました。そこで店長たちの業務負荷を軽減し、コア業務に集中できるようにと導入を決めたのが自動発注システムです。店舗ごとの発注数量にもバラつきが生じることで、食財ロスも非常に重要な課題となっていました。

 

食財ロスを軽減するため、以前はよく行われていた店舗間の食材移動もDX推進により半減

Q2.どのようなツールを用いたのか、導入までの流れを教えてください。

もともとコロナ禍前から、業務の自動化を可能にするソフトウエア技術「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を導入し、レジ集計の自動化を進めてまいりました。そのため、近年はセントラルキッチンなどへの食財の発注が容易になりつつありました。さらに、2021年にはIT導入補助金を活用して、受発注システムの高度化を図ることにしました。

そこで運用を開始したツールが「HANZO自動発注」です。来客数やメニューの販売数をAI(人工知能)技術を使って予測し、食財の発注数を算出。発注から納品までの日数を加味しながら、食財を自動で発注することができます。併せて、「メニューPlus」を連携させ、自動発注で利用するレシピ情報を作成・管理することにいたしました。メニューには店舗ごとのレシピ原価の表示ができ、それぞれ食財使用料が算出されるため、食財の無駄も見える化することが可能になりました。調理工程の管理・共有もでき、調理手順を動画で確認できるのも人財育成に役立ちました。

その後、システム運用をはじめて3ヵ月ほどは、過去のデータ集積に力を注ぎました。また、当社はトップダウンではなく、何事も自分たちで決めることを大切にした社風です。DX推進も自主的に取り組んでもらえるよう、いかに便利で利点があるかを我々ストアサポートマネージャーたちがしっかり把握し、店舗担当者に伝えることからスタートしました。

 

 

直感的に操作ができるデザイン。メニューごとの原価も一目でわかる。

Q3.DXを進めていく中で苦労された点はありますか。

最も不安に思っていたのは、「現場からの反発が大きいのでは」ということでした。飲食業界というのは職人気質の人が多く、特に50代以上の店長はデジタル機器にあまり触れたことがないという人も多いため、まず慣れてもらうところからだろうと、各店舗にタブレットを支給しアプリを触ってもらうことからはじめました。

ただやはり、慣れ親しんだやり方を変えるのはそう簡単ではなく、導入から2年ほど経っても全店舗に浸透するまでには至りませんでした。そうしているうちに少しずつデータが蓄積されていき、率先して自動発注を取り入れた店舗から、目に見えて結果が現れはじめました。

さらに、約1年前からは、各店舗の発注数とともに、実際の販売数や廃棄数などをまとめ、データ集計し、成果を確認するようにしました。その結果、明らかに人間による発注よりも、AIが算出した売上予測の方が精度が高くなっていました。廃棄数の減少や発注時間の短縮を数字で示したことで信憑性が増し、これまで自動発注を取り入れていなかった店舗も、納得して使ってもらえるようになりました。

Q4.どのような効果がありましたか。

まず、一番の課題だった発注業務にかかる時間ですが、これまで1回平均30~40分かかっていたものが、最も早い店舗では約5分で完了するようになりました。過去、私自身も店長を経験し、大変な思いをしながら発注を行っていましたので、ここまで短くなったのかと驚きました。

発注数は、毎日23時時点の在庫から自動的に算出されるため、業務としてはその日の在庫数を端末に入力するだけで済むようになりました。今では経験の浅いスタッフにも任せられるようになり、属人化が解消できたことで、店長やベテランのスタッフには、お客さまへの対応や人財教育に注力してもらい、1人1人の生産性の向上も図れるようになりました。
食財ロスの抑制にも大きな効果を生み出しました。主力商品の牛たんの賞味期限は2日間で、納品された翌日には廃棄となります。そのため、人間が考え発注していた頃は、品切れしないようにと、どうしても在庫が過剰になっていました。それがAI技術を活用することで、納品までの日数を考慮した発注が可能となり、いまでは導入前と比較し食財ロス30%削減を実現できるようになりました。

Q5.今後、どのような展開を考えておられますか。

当社では、お客さまの満足のために最も大切なのは「働く仲間の幸せ」だと考えています。全ての店舗が高い水準のサービスを提供するためには、従業員の成長が欠かせません。そのため、「人を育てることで、自分も成長する」という「人財共育」の理念を軸に、人財を育てた人が高く評価される仕組みを取り入れています。その中心を担う店長たちの業務がDXの推進で短縮されたことで、より人財教育に力を入れられるようになりました。

さらに今後は、紙ベースの契約書などのデジタル移行を行い、ペーパーレス化をはじめとした業務の効率化に積極的に取り組んでいきたいと考えています。人事評価システムもIT化することで、人財価値を最大限に引き出し、全従業員が働く喜びを感じられる環境づくりと仕組みをより促進していけるのではと期待しています。