事例インタビュー

自社開発のソフトで現場を見える化 製造業を楽にして、業界を元気に!

日本ツクリダス株式会社

代表取締役 角野 嘉一さん

製造業生産プロセスの改善ビジネスモデルの変革新しい事業・サービスの創出

Q1.貴社の事業内容について教えてください。また 、DX推進のきっかけは何だったのでしょうか。

私たちの会社は“ものづくり”と“ことづくり”の両方を手掛けています。メインとなる事業はものづくりで、切削と呼ばれる金属加工を行っています。
もうひとつのことづくりは、自社で開発したソフトウェア「エムネットくらうど」の販売と、それに伴うサービス提供やデザイン事業です。
製造業の現場において、従業員数がそれほど多くない町工場レベルでは、生産管理は社長や工場長の頭の中で行われることが多く、従業員に情報共有できていない場合が多数見受けられます。
弊社においても同様で、加えて多品種少量生産のため、月に600~1000枚もの図面を取り扱っており、誰が何をやっているのか、この案件はどこまで進んでいるのかというのを、皆で共有できていないのが大きな課題でした。
そこで情報共有と見える化を軸にしたシステムを自社開発。図面をシステムに取り込んで一元化し、誰でもいつでも納期や進捗状況などが見えるようにしました。
それまでは可視化できていなかったため、例えば納期の近いものとまだ先のものがあった場合に、先のものから仕上げてしまい、後から慌てて納期の近いものに取り掛かることもありました。
そうすると、急ぎの時には不要な残業が生まれ、先のものは早く仕上げてしまっているため無駄な空き時間ができてしまうのです。さらに金属加工の仕事は、この先も確かな受注があるのかわからないフロービジネスです。ソフトウェアの開発は自分たちの仕事を楽にするためという理由もありましたが、同じ悩みを持つ現場で必ず需要があるはずだと考え、販売を目的にしたストックビジネスとして立ち上げた経緯もあります。

Q2.ツールの詳細を教えてください。導入により、どのような効果が得られましたか。

金属加工の仕事は、見積りから注文、製造、検査、出荷、納品、伝票を発行して入金…と、1つの案件に複数の作業が発生し、長い場合には完了まで数か月かかってしまいます。
そこでまずは事務仕事の短縮を考え、小さなツールからひとつずつ試していくことにしました。一番最初に取り入れたのは、伝票ソフトとファイル共有ができるDropboxです。
さらにタスクを付箋状に管理するTrelloも重宝しており、お客さまからの要望をメモのように残して、顧客管理や営業管理に役立てています。また、Googleサイトで営業担当の予定や社内の業績情報、会社規則などを管理。これはGoogleスプレッドシートと紐づいているので、各々が入力すればいつでも最新の情報が自動編集され、すべての更新が一目でわかります。

製造のDXの中枢を担うのは、現在ソフトウェアとして販売している自社開発の「エムネットくらうど」です。これはいわゆる生産管理システムで、納期管理や工程進捗管理、日報の収集などをまとめて行えるため、作業効率が格段にアップしました。加えて、監視カメラ代わりにGoogle Meetを活用。通常の監視カメラと違って事務所と現場を双方向でつなげることができ、連絡のための行き来の手間が減りました。
DXの効果としては、金属加工の作業フローがきれいに整理されて効率がアップしたことと、事務仕事がコンパクトになり人件費が半分ですむようになりました。さらに属人化が解消したことで働きやすい環境も実現。時短勤務や、休みを確保しやすい労働環境を作ることに成功し、一時期はパートの募集に60人が殺到するという、求人上での嬉しい効果もありました。

 

Google Meetを監視カメラ代わりに活用している様子。事務所と工場、互いの状況を把握できる

Q3.DXを進めるにあたり、苦労したことや工夫した点は何ですか。

これまで色々なツールを導入してきた弊社ですが、もちろん失敗もあります。近年では顧客情報をまとめて管理できるシステムを約400万円で導入し、1年かけて構築運用しましたが、金額に見合った効果を得ることができませんでした。
次年からも更新費用が発生するので、そこは潔く損切りするつもりで手放し、別のツールに切り替えました。大金をかけて導入した場合、「せっかくここまでやったのだから」とズルズル使い続けてしまう場合が多いと思うのですが、時には見切りをつけるのも必要です。
また、弊社が工夫している点は、なるべく無料のものや安いツールを試すことです。そこで課題が解決できればそれでいいし、他の機能が必要だと感じれば、初めてワンランク上のツールを導入してみても良いと思います。よく、「ツールを導入しても社員が使うかどうかわからない」という悩みを耳にしますが、無料のものや安いものであれば痛手を負うことはありません。さらに、そこで得られる「課題を解決できた」という小さな成功体験が、「デジタル化って便利だな」と感じる社員のマインド醸成につながります。
また、現物が手元にあったほうが便利だと感じるものは紙で残すといった、アナログとの併用も工夫している点のひとつです。

 

書類を専用ボックスで保管。社員が休みを取る場合、このボックスに書類を戻せば誰かが代わりに進めておける仕組み。デジタルと紙の両方を使って情報共有と見える化を行い、業務がスムーズに

Q4.これからDXを進めたいと考える企業へ、アドバイスがあればお願いします。

現在、自社のDXはある程度完了し、より作業しやすくなった金属加工業にプラスして、「エムネットくらうど」の販売及びサービスの提供を積極的に行っています。
弊社と同規模の製造業を行う企業は、「生産性を向上させたい」「働きやすい労働環境を作りたい」など、似たような課題を抱えがちです。その課題を解決するためにDXを進めようとするのですが、皆さんストイックすぎると感じます。「どうせやるならいっぺんに解決したい」と、まるで崖をよじ登るような高い目標に設定し、結局は疲弊して途中で断念してしまうのです。私はDXの推進において、まずは小さな目標を掲げることを勧めています。
1つの課題に1つのデジタルツールを用いて、階段をのぼるようなイメージでデジタルに対する苦手マインドを克服していくのです。最初から100点満点を目指すのではなく80点が取れればOK。
DX実践の成功企業事例として取り上げていただくことも多い弊社ですが、最初から今のような状態だったわけではありません。前述した通り、色々なツールをひとつずつ導入し、時には失敗もしながら10年かけて現状を作り出しました。
今からDXを進める皆さんには「私たちが10年かけて作り上げたものを、1年で真似できますよ」とお伝えしています。弊社はショールームのような役割も兼ねているので、全国から色々な企業が見学に来られます。
私たちが挑戦してきた事例が、皆さんの役に立てば幸いです。

 

エムネットくらうどの画面

Q5.最後に、今後の目標について聞かせてください。

「エムネットくらうど」を導入してくださっている企業は、今では162社(※2023年12月現在)にのぼります。今後はこれらの企業と企業をつなぐプラットフォームのようなものを構築したいです。
例えばこれまでは、金属加工の注文があっても自社で受ける余裕がない場合、メールやファクスで他社に依頼を出すことがありました。もしもプラットフォームがあれば、そういった情報を162社で共有して誰かが手を挙げることができます。
「エムネットくらうど」で、自社の生産効率を上げるだけでなく、新規の案件を獲得することもできるのです。そんな仕組みづくりを目指し、製造業全体の向上に寄与できればと思います。