事例インタビュー

生産管理や事務仕事をクラウド化 継続的に行い社内マインドを改革

西機電装株式会社

取締役管理部長 白井 義人さん

製造業業務プロセスの効率化企業文化や組織マインドの変革

Q1.貴社の事業内容とDX推進の経緯を教えてください。これまでどのような課題を抱えていたのでしょうか。

当社は、顧客からの仕様に基づいて、造船所、製鉄所、港湾などで使用される各種大型クレーン等の電気室・制御盤の設計・製作を手掛けています。これまでは、受注から出荷までの行程において情報管理と共有が十分にできておらず、製造過程での戻り作業や製品の不適合発生、これらを起因とする出荷の遅れが出ていました。

そこでこれらの課題を解決するために生産管理システムを導入。しかし、かなりの費用をかけて導入した生産管理システムを、うまく活用することができませんでした。というのも、当社が扱っている製品は量産品ではなく、A社の製品ならA社の仕様、B社の製品ならB社の仕様という“一品一様” です。このため設計時の変更が非常に多く、すべての計画変更情報を生産管理システムに入力するのは現実的でなかったのです。

システム導入時には、自社向けのカスタマイズが自由にできるかを十分に確認していましたが、結局、重要な局面でのカスタマイズはできませんでした。できた箇所があったとしても高額な改修費用が発生していました。どうしたものかと悩んでいたところ、あるセミナーでkintoneというクラウドシステムがあることを知ったのです。

Q2.抱えていた課題を解決するために、どのようにツールを用いたのでしょうか。

私たちが課題解決に用いたツールであるkintoneは、システムの基本となる機能がすべてそろっています。しかもこれらはノーコードツールといって、画面とデータベースを自分たちで簡単に作ることができます。これを使えば、自社にぴったりの生産管理と情報共有ができると直感し、2018年頃に導入を決めました。まずは私自身がkintoneを深く知るために、総務部向けの人事台帳を作成。ここで「使えるな」と判断し、製番管理台帳という情報管理システムを作ることにしました。製品にはそれぞれ製品番号が振られており、その番号ごとに納品期限や予算、必要な材料、作業時間の記録などを記入するようになっています。
製番管理台帳システムの運用においては、関わる人が製品にまつわるすべての情報を入力することで、皆が即座に情報共有ができるようにしました。しかも、これらの情報がそろっていることで、製品ごとにリアルタイムで損益計算が可能になりました。さらに社員一人一人が持つQRコードを印刷したカードと、ハンディターミナルによって、現場社員が部材を簡単に発注依頼する仕組みも構築。また、製品に関する情報共有だけではなく、不適合発生時の情報(発生の状況、発生要因の分析、是正処置など)の記録、共有、業務におけるヒヤリハットの事例を残すなど、企業品質管理や職場の安全管理にも活用しています。

上記と同時に、社員たちにメリットを広く知ってもらうため、皆が毎日使う弁当発注アプリも作成して運用を開始しました。当社では昼食の弁当を発注する際、紙様式の発注表に手書きで日付とメニューなどを記入し、キャンセル時はこれを消していたのですが、発注忘れやキャンセル漏れが時折発生していました。弁当発注アプリを使うことで、社員が自宅からスマホやパソコンで発注・キャンセルができるようになり、前述のようなトラブルがほぼなくなると同時に、「kintoneとはこのようなことができるシステムなのか」「クラウドシステムは便利だな」と理解してもらうことに成功しました。また、コロナ禍にあって、朝、昼、晩の体温を記入するアプリも運用。体温はデータとして蓄積されるため、エンドユーザー様の現場などに赴く際、2週間分の体温の提出を求められても即座に対応することができました。

Q3.苦労した点や工夫したことは何ですか。

最も苦労した点は、デジタル化に対する意識の改革でした。冒頭でもお話ししたように、当社は一度、生産管理システムの導入失敗経験があったため、kintone導入時に、社員たちの「本当に便利になるの?」という気持ちがとても強く残っていたのです。さらに、システム導入失敗の負の遺産として、情報の二重管理(同じ情報を複数のローカルルールで管理してしまい、更新漏れが発生しやすく情報共有の失敗につながっていた)が起きていたのですが、これを廃止するのにも時間がかかりました。

kintoneを導入すれば必ず便利になると確信していた私は、信頼性の高い情報共有ツールとして社員に認識してもらうため、「とにかく新しい情報も更新情報もkintoneに入力して、情報確認もまずはkintoneを見てください。そのあとで、電話やメールを使って情報の確認をしてもよいから」と言い続けてきました。

それと併せて、先ほどの弁当発注アプリのような皆が手軽に使えるアプリを並行運用し、デジタル化の便利さを体感してもらえるよう工夫しました。社内では私とシステムエンジニア2名で「情報システムグループ」を作って、運用や活用方法のサポートも行いました。

 

Q5.これから挑戦したいことを教えてください。

私たちのこれまでの経験を愛媛県や新居浜市が知るところになり、2021年から県内外のDXセミナーなどでお話をさせてもらう機会が増えました。

そこで当社と似たような課題を抱えている企業の皆さんからコンサルティング・システム開発などの依頼を受けるようになり、これまで数十社のお手伝いをしてきました。

他の企業と接していると、DXという言葉だけが先走りすぎ、ツールを導入したものの活用できていなかったり、自分たちの考えが不明確なままコンサルティングを受けて結果を出せずに困っている姿をよく見かけます。

そこで私たちのような、先にDXの成功事例を出せた企業が率先してサポートすることで、中小企業全体の底上げをしていくことが大事です。さらに今後は、現場でkintoneがより使いやすくなるようなツールを自社製品として開発し、併せて提案できるような体制を整え、大学との連携でDX推進のための学術的研究も行う予定です。