事例インタビュー

目的を明確にしたDX推進で絆と信頼をより強く 男性社会をしなやかに進む女性建築デザインチーム

有限会社ゼムケンサービス

代表取締役 籠田 淳子さん、常務取締役 鴛海 奈緒子さん

建設・土木業社内の働き方改革企業文化や組織マインドの変革ビジネスモデルの変革

Q1.事業内容および、DX実践前の課題を教えてください。

籠田さん:主に地元企業の事業用建築物を中心に、店舗、工場、オフィス、各種施設などの設計から施工までを行っています。
男性多数の建設業界では珍しく、社員数11名の内7名が女性、内4名が一級建築士です。女性ならではの視点を活かし、お客様一人ひとりに寄り添った空間づくりを得意としています。
私自身が地元で建設業を営む家で生まれ育ち、建設という世界の素晴らしさを知る一方で、男性が多数を占める業界の「女性の不足」という課題も感じていました。
出産や介護など、ライフイベントを機に建設業を離れていく女性の一級建築士が多数いらっしゃいます。また一方で、建築や環境づくりの現場では、空間の色使いや細やかな導線など、女性ならではの視点が求められるケースが多々あります。働きたいけれど働くことを諦めざるを得ない女性たちがいて、女性の感性が求められる現場がある。
そこで私は「女性がこの業界で働き続ける方法」を考えるべきだと思い、これまでの建設業界にはない、女性が働きやすい建設会社づくりに長らく取り組んで参りました。

 

Q2.DX実践のきっかけと、導入したツールについて教えてください。

鴛海さん:「自分のスキルを活かし、図面を引く仕事がしたい」そんな思いを持った2人の女性を採用し、2人で1人分の業務と給与を分担する「ワークシェアリング」を初めて導入したのは2006年のことでした。女性が子育てや介護などと両立して働けるよう、まずは基本的なことからデジタル化していきました。
「メーリングリスト」を使って常に情報を共有する、全員「Facebook」に登録して仕事の現状を把握し合う、そのグループで稟議できる仕組みを整える、さらに毎朝必ず自分の顔写真と現場写真をチェックポイントと一緒に投稿するこることで、離れた場所にいるスタッフにも顔を見せ、様子が伝わるよう工夫したりしました。このようにまずは無料のツールを導入し、情報共有や人材育成など必要なことから段階的に効率化していきました。「DXで解決しよう!」と意識していたわけではなく、「どうやらこれがDXと言うらしい」と進行しながら気づいたような形です。
有料のツールを初めて使用したのは2014~15年頃「いつでもどこでも自分たちの仕事ができるようにしよう」と目標を掲げ、まずクラウドデータ共有サービスの「Dropbox」を契約しました。
それまでは図面の管理は何十枚もの印刷した紙に書き込むという流れで、後は議事録を回覧して確認し、抜けや漏れ、指示者などもすべて記していく必要がありました。
建設の現場は物件のデータや図面などの事務的な資料が多く、加えて図面は頻繁に修正されるので、変更内容をきちんと把握しておくためにも、資料のやりとりや保管には注意と労力が必要でした。

Q3.DX推進にあたって、苦労された点や工夫した点は?

籠田さん:DX推進のために、エンジニアを1人採用するという考えもあると思うのですが、社員全員が目を向けないとX(変革)の状態はつくることができません。
社員の年齢もITリテラシーもバラバラで、苦労したことは勿論ありますが、互いに教え合うという地道な作業を繰り返し、徐々に推進してきました。DXは「やっておいて」では絶対に実現できず、経営者が方向を明確に示し動かすことが重要であると感じました。

 

鴛海さん:DX推進のために弊社が工夫したことの1つが「昼礼」です。建設業では現場でも朝礼があるため、弊社は1時間半の昼休みの、最初の15分でweb会議ツールを使った昼礼を行います。
新型コロナウィルスの時期から、事務所にいる人同士もそれぞれの席から参加するようにしてトレーニングしてきました。実践してみると上手くWi-Fiが繋がらないとか、ミュートのやり方がわからないなど、細かいトラブルがたくさん起こりました。理解が早い人が教え、その都度微調整や解決策を探すという流れで、全員がツールを理解するまで教え合っていきました。
さらに少しユニークなのが、オンラインミーティングの際に代表が行う「映り方の指導」です。オンラインほど、無表情・無反応で聞くと相手は不安になるので、大きく頷くなど少しオーバーな素振りを意識するようになりました。そういった細かい気づきは女性ならではかもしれません。

 

籠田さん:また、在宅勤務について子育て中とそうではない人で不満が出たこともあり、1週間ずつ社員全員が体験し、生産性や心理的な変化を全員分検証しました。
すると「在宅勤務の方が疲れるほど仕事をやってしまう」「集中できるから疲れる」、逆に「会社は雑談したり一緒にご飯食べたりできて楽しい」などの声が上がり、意外な結果となりました。

Q4.DX実践によって、どんな変化がありましたか?

鴛海さん:「Dropbox」の導入によって、図面の管理が効率的になり、今までのように何十枚も印刷して持っておく必要もなく、自分が急遽欠勤したとしても、周りの人もデータを確認できるようになりました。家からでも最新の図面がチェックできるようになり、リモートワークしやすい環境が整ってきています。
また、早稲田大学と共同開発中のAI、AR技術を利用した「AI+AR(愛ある)のマネジメントツール」では、現場の若手社員とオフィスの上司をつなぎ、現場の注意箇所が事前に把握出来たり、品質管理のチェック項目が工程ごとに確認できるなど、現場の安全・品質管理と、若手社員の育成にも役立っています。

 

ミーティングスペースで意見交換

Q5.今後DXしたいことと、会社の展開を教えてください。

鴛海さん:弊社は「全社経営」と言って、経営的な勉強を社員全員にさせているため、一人ひとりが会計・事務を基本的に交代でやっているため管理部門が不在です。インボイス制度や電子帳簿保存法などによる作業の負担増を防ぐべく、今後はそういった事務作業のDXも必要だと思っています。

 

籠田さん:昨今は生成AIや、ローコード、ノーコードツールのような、私達が最初にDXに着手した頃にはなかったような技術が出てきています。進化するデジタルツールを学び、この際いろんなことを順次デジタル化・省力化できるようにしていく段階がきていると感じます。
前はDXに苦手意識のあった社員たちも今はしっかり育ってきたので、また次のX(変革)を目指していけたらと思います。